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ご挨拶
この度、本学会理事長にご選出していただきました朝田隆より就任のご挨拶を申し上げます。
40余年に亙る自らの医師・医学者生活を振り返る時、この間に見聞きしてきた脳科学研究の変化には印象深いものがあります。何より研究対象が、可視化や定量化がしやすいものから、漠とした定性的なものへとシフトしたことです。個人的には意識とは何か?の研究の出現に衝撃を感じました。また精神科医師としては、幻覚の画像化、また依存・習慣あるいは孤独・社会性などの脳内メカニズムの解明とその画像化などは衝撃でした。
さて「人生100年時代」という言葉はリアリティのあるものとして定着してきました。その反面、「老」とは何かが実はわかっていないことが明らかになってきました。例えば、厄年は60歳で終わっていますが、これは最近まで60歳以降の人生は考える必要がなかったことの表れかもしれません。実際、ある仏教宗派の調査では、生老病死のうち、これまでお坊さんでも語られることのなかった「老」を教えて欲しいという回答が最も多かったそうです。
そこで求められる「老」の探求に対する一方の旗手が、近年急成長する分子・細胞レベルの老化研究でしょう。その対極の旗手は、人の脳活動の根本「知情意」の経年変化の解明かもしれません。というのは「老」とともに移りゆく脳活動を考える上では、これまで主に扱われてきた「知」にとどまらず、扱いが難しかった情と意を俎上に載せることは不可欠だからです。そもそも一番研究されてきた「知」に対する「情意」の関与があまり分かっていません。なによりこれらが三位一体となって脳活動が営まれていることは論を待たないからです。
さて私は、本学会は認知神経科学の領域の来し方をまとめ、行く末を示す場と認識してまいりました。また本学会は、脳科学の基礎と臨床、そして両者の介在に携わる人達の集いの場でもあります。上に述べたような現在の動向を踏まえ、本学会の新たな役割としてこの「介在」という視点も重視して、インターネット時代にマッチした実践的・実用的な学術活動も必要になると考えます。認知神経科学会が重ねてきた知的蓄積の上にそうした新たな分野への挑戦が融合することこそ、本学会が体現する温故知新かと考えます。
ご指導・ご鞭撻のほど何卒宜しくお願い致します。
認知神経科学会 理事長 朝田 隆
大槻 美佳 | 重藤 寛史 |
相原 正男 | 朝田 隆 | 石津 智大 | 田中 裕 |
谷脇 考恭 | 渡邉 修 |
相原 正男 | 朝田 隆 | 飯干 紀代子 | 石津 智大 |
稲富 雄一郎 | 今福 一郎 | 魚住 武則 | 大槻 美佳 |
加我 君孝 | 金村 英秋 | 後藤 純信 | 小林 祥泰 |
佐藤 正之 | 重藤 寛史 | 新堂 晃大 | 杉下 守弘 |
武田 克彦 | 田中 裕 | 谷脇 考恭 | 栃木 捷一郎 |
飛松 省三 | 長田 乾 | 中谷 謙 | 林 洋一 |
板東 充秋 | 東山 雄一 | 平田 幸一 | 福山 秀直 |
藤井 正純 | 松井 三枝 | 松田 修 | 峰松 一夫 |
三村 將 | 村井 俊哉 | 本村 暁 | 諸冨 隆 |
谷口 清 | 安野 史彦 | 山口 修平 | 山崎 貴男 |
山本 絵里子 | 横澤 一彦 | 吉浦 敬 | 米田 孝一 |
渡辺 英寿 | 渡邉 修 | 渡辺 茂 |
相原 正男 | 朝田 隆 | 小林 祥泰 | 長田 乾 |
板東 充秋 | 峰松 一夫 | 渡辺 茂 |
加我 君孝 | 小林 祥泰 | 長田 乾 | 板東 充秋 |
福山 秀直 | 峰松 一夫 | 本村 暁 | 渡辺 英寿 |
渡辺 茂 |
「認知神経科学」は、認知神経科学会の学会誌として1999年4月に創刊され、本号(Vol.9,No.1)で通巻23号を重ねます。本誌ではこれまで、会長講演、シンポジウム、教育講演などの学術集会の記録を中心とし、原著、短報、症例報告や総説などの投稿論文も掲載してきました。
1996年の発足から11年を経て、認知神経科学会は新たな10年(decade)に入りました。そこで、学術的な発信と討論の場をより広げ、学会誌として質量ともに充実したものにするため、編集幹事2名を置き、あらたに以下のような企画を設けて誌面の刷新を目指します。
原著はこれまでも掲載してきましたが、博士論文掲載などで若手研究者の発表の場として広く誌面を提供することを考えています。神経学・神経心理学領域の古典や、肖像写真を含めた内外の神経科学者のプロフィールの紹介を連載企画としていきます。また、認知神経科学全般をテーマに選んだ座談会、ブックレビューなども企画していきます。
認知神経科学 cognitive neuroscience の指し示す範囲についての、一致した見解はまだありませんが、本学会で論じてきたのは,古典的な症例研究にはじまる神経心理学、脳賦活研究を含む神経生理学や脳機能画像、さらに言語学、心理学などの関連領域、これらすべてを含めた脳と行動の関連への総合的なアプローチです。さらに、検討の対象をヒトに限定せず、動物の研究もとりあげてきました。
「認知神経科学」誌がこれから、より一歩踏み込んだ議論の場として発展していくように、会員諸氏のより一層のご協力をお願いしたいと思います。
2007年4月
認知神経科学 編集委員会
編集委員長 杉下守弘
編集幹事 福山秀直
学会誌『認知神経科学』を年に4号刊行しています。
最新号は「会員のみなさま」のみ読むことができます。
刊行後6ヵ月が経過した号は、J-STAGEで無料公開しています。
下のリンクをクリックすると、直接、論文を閲覧できます。
原稿は電子媒体でメールにてお送り下さい。図、表も電子化(JPEG 形式またはTIFF 形式)して下さい。
〒108-0023
東京都港区芝浦2-14-13 MCKビル2F
笹氣出版印刷株式会社内
『認知神経科学』編集委員会係